弔辞 

 弔辞  恩田雄介さんを偲んで

                                                                                                     2015年10月10日

 恩田さん、あなたと私たち麦の家との出会いは、平成20年8月4日、ショート・ステイとして、試しの入居をされたのが始まりでした。この3年という“時”は、極めて短かいものながらも、あなたとの一人の人間としての交わりの“時”として、本当に言葉では言い表すことの出来ない、限りなく深い人間として生きることの意味を考えさせられる時でありました。忘れることの出来ない素晴らしい様々な情景として、蘇ってまいります。

あなたは、医学的には未だ解明し得ていない、不治の病に、然も、予想を超えた病いの急速な進行に侵されながらも、その病と闘い、与えられた人生を生き抜くために、全力で戦う時でした。麦の家の利用は、貴方にとっては、病いが襲う苦しい生活を、生き抜く場として、病院に於ける医療的治療の場から、福祉サーヴィスとして、私たち麦の家の介護の場を選んでくださったのです。その選択にはどれ程か、周りからの様々な思いがあったことでしょう。しかし、そのなかで、貴方のご家族、特に、あなたを愛してやまない奥様の苦しい熟慮の末の決断があったことに、この場を借り、改めて感謝の言葉を申し上げます。

本当に、貴方は、素晴らしいご家族の献身的な愛情に囲まれて、麦の家での3年という“時”を過ごされました。また、その場にいた麦の家で生活する他のお年寄りは、貴方の生き抜くとする姿に励まされ、職員もどれ程か励まされ、教えられたことでしょうか。感謝の言葉もありません。改めて、「生きるということ」の根底に、「人と人の交わり」が、特に、ご家族、ご兄弟の絆が、夫婦愛の素晴らしい力が、親子の結びつきが、悪戦苦闘の人生のなかにある人に、大きな力となり、意味を持つものであるのかを教えられる時でもありました。

 麦の家に来られた当初、周りの人の力を借りながらも、何とかご自分の力で歩くことが出来た当時から、奥様は、土曜日、日曜日に欠かすことなくあなたの傍にいて様々なお世話をしておられたこと、特に、今年の3月退職された、奥様が毎日の様に、ご主人の雄介さんを見舞われ、愛に包まれた世話をされていたこと。その際、雄介さんの奥様に見せる喜びの表情は目を疑うばかりの、希望を麦の家の職員は教えられるばかりの時でもありました。

雄介さん、貴方が、突如、風疹に侵され、生が危ぶまれるなど、幾たびか、生きる事への危機に遭遇されたこともありました。危機状態の時、麦の家では、何時も、医師のご指導を受けながら、貴方の奥様を中心にして、またお母様を支えるお二人のご子息ご家族の力が、貴方が全力投球で与えられた生を、生き抜こうとする力を支え、それがあなたの生きる力の源となっておられたのだと今にして深く思う次第です。

 また、私たち麦の家の職員の記憶に残ることとして、ご次男の結婚式に出られたことです。何時、けいれん発作を起こすかもしれない、外出困難な状況のなかで、医師のご指導を受け、万難を排し、あなたへの熱い思いで、その日を迎えられる決断をされたということです。挙式における最も厳粛なる瞬間、貴方は、父親として参加された喜び、貴方の息子さんが新しき家庭をつくることを誓い、その宣言をされた瞬間に見せた、あるがままの父としての感激・喜びの感情表現は、出席者一同に深い感動・感謝の思いを与えてくださいました。この場を借りてお礼申し上げます。

 雄介さん、喜んでください、そして安心してください、貴方の素晴らしい二人のご子息家族に、今、新しいいのちの恵みの誕生が与えられたのですね。本当に良かったですね。安らかにお休みください。そしてあなたのことを愛してやまないご家族、特に奥様をお守りください。

                   

            社会福祉法人 麦の家    理事長 松本栄二


掲載日:2016/02/03 トップページ > 麦の家からの発信 > 理事長のつぶやき > 弔辞